第4回 基本

 今回のテーマはえすのサカエ『未来日記』の我妻由乃について……ちなみに『未来日記』に関してはここで詳述しないので悪しからず。まずは彼女についていくつか。主人公・天野雪輝(なんで一発変換したんだろ)と同じ学校に通う美少女だが、雪輝の行動を10分刻みでケータイに記録していたという筋金入りのストーカー。ろくに会話もしてない雪輝を「ユッキー」と呼んだりする(=『すでに知り合っている』という妄想が表面化したもの)あたりも基本に忠実です。さらに才媛というのも始末が悪い。頭のいい人は邪な方向にもその頭脳をフル回転させることが出来ますからね。「何を犠牲にしてもユッキーを守る」という言葉のとおり、彼のためならTNT爆弾で数十人吹っ飛ばすのにもこれといった躊躇いを見せません。ヤンデレのベーシック設定はその盲目性――自分の想いを成就させるために手段を選ばない(もちろん、そこには自殺も含まれます)ことにあるのでこのへんも合格点と言えましょう。衝動が雪輝そのものへ向かないのは良識人であるがゆえか、それとも一介の中学生にすぎないという自己認識ゆえなのか定かではありません。実際に「守る」というアクションの最良の手段だけを考えれば、雪輝を自宅に監禁してしまえばいいわけですから。
 さて、直前の苦言でも表れていますが、彼女の問題はヤンデレキャラとして及第点以上でも以下でもない部分にあります。確かに教室数個分の人間を犠牲にして雪輝を守ろうとしたのは異常かもしれません。が、その原因はクラスメイトのみならず教職員までもが彼へのいわば「裏切り」的行為に加担したという事実にあります。あの「みんな死んじゃええッ!」の「みんな」とは彼女自身が次のセリフで言っているように「ユッキーを殺す者」の集合を指し示すわけです……まあ、実際これだけでも相当異常な感覚の持ち主であるのは確実なんですけれど。いろいろと引っ張ってきましたが、言うなれば彼女は「成長型」のヤンデレキャラなのであります。
 対9thこと雨流戦では上のように雪輝を守るために全力を尽くしていたわけですが、その次の対12th&6th戦では6thが自分を疑うよう仕向けただけで殺意を抱くようになります。さらに対5thこと豊穣礼佑戦(の直前)では雪輝の母に気に入られなければ、やはり殺害をも辞さなかったらしい描写も見受けられます。要するに彼女が持つ「排除」の基準が「雪輝の命を狙う者」→「雪輝と自分の関係を邪魔する者」へとシフトしたわけですね。この外的要因による変化をして「成長」とここでは呼称します。ここからは憶測なのですが、この基準の移行はやはり対9th戦が原因であるように思われます。ぶっちゃけて言えば、あの事件で由乃は目の前で人が死ぬことに慣れてしまったのです。だからこそ対12thのときも信者たちの頭を躊躇なく斧でかち割ったり、ついでに6thも斧で始末しようとしたりするのです。また、対5thのどさくさで雪輝の母を鉄鎚で殴ったときも雪輝にこそ涙ながらに謝るものの、改めて本人に謝罪した様子もなさそうなところからも彼女の心境の変化(=病み具合の加速っぷり)が窺えます。そもそも彼女がストーキング行為に走ったのも「雪輝の『将来の夢』を偶然見てしまった」という外的な要因によるものである、という点も見逃せません。気に掛かるのは雪輝が我妻邸で目撃した「遺体」ですが、これはまだ物語で詳しく語られていないので保留とします。
 個人的にはここからどう続いていくのか、というか、どのように由乃がバグっていくのかが気になります。ただ第3巻で「ゲームで勝ち続ければいずれ雪輝と殺し合うことになる」という大前提をすっかり忘れていたあたり、まだまだ正気と狂気の狭間で踏みとどまることが出来ているみたいですけれども(この事実を思い出させた豊穣礼佑はやはり碌でもない子供だった、ということでしょうか・笑)。わたしは漫画を単行本でしか読まない人間なので、とりあえず既刊分だけで分析してみました。
 今回はここまでとします。