「ザッツ・エンタテイメント」の巻

 時折夜6時のニュースを見る機会があるのだが、どこの局もやっている企画でごく内輪なネタを扱うというものがある。で、今回は土地開発に向けての桜の木の撤去を巡って近隣住民と業者との言い争いが取り上げられていたのだが、どうも腑に落ちない。というのも、桜の木が生えている敷地は業者の私有地なのだ。これはどうしようと業者の自由であり、住民にとやかく言われる筋合いはない。住民のほとんどは団地住まいであり、敷地とは何の関係もない。彼らの主張はただ「みんなの桜の木を伐採するな」だの「景観を壊すな」だのという論理性を欠いた主張である。しかも中には業者の人間に「あなたには良心というものが無いのか」と詰め寄る者もいた。いくらなんでも傍迷惑だろう。他にも彼らは大げさに垂れ幕をベランダから下げたり、鉢巻を巻いて団結を固めたりしている。要するに身勝手な自慰行為が全国のお茶の間へ向けて放映されているのだ。一旦VTRが終わったあとにキャスターがまとめをしてくれた。その中で「その敷地を住民が買い取る」という案が提示された。これは最良の方法だろう。住民も桜を「保持」できるし、業者も潤う。しかしながら、これは「資金の問題で不可能」とされていた。そういう結論が住民側で出ているらしい。だったら引き下がるしかないと思うのだが、自らの感受性のみを信じて疑わない心豊かな住民諸君は行政に訴えた。行政もこれには参ったことだろう。何せ理屈からして狂っているのだ。住民連中はそれまで桜の木のあった土地の固定資産税その他の維持費は誰が支払ってきたと思っているのだろう。何よりわたしの癪に障るのはその民放局が業者を「悪者」扱いしていたことである。彼らは法に則り、その義務を果たし、そのうえで当然の権利を行使しているにすぎない。しかし局の映像は明らかに彼らを非難する傾向にあった。先に述べた住民が詰め寄るシーンなどはその典型だ。
 結果、伐採は中断されたものの、あくまで延期であり伐採は決定されているらしい。ある住民(当然鉢巻着用だ)は別の住民と抱き合って泣き崩れていた。これでは業者があまりに不憫だ。民放局は視聴率を稼ぐためにこの話題を取り上げた。住民は自らの鬱憤を晴らすべく、民放局の取材を容認した。それはもちろん業者の「非道な振る舞い」を全国へ向けて訴えるためである。要するに利益の方向性こそ違えど、互いを利用しあうという、しかも、その方向性の違いゆえに極めて姑息かつ有効的な業者への営業妨害が行われたわけだ。あの映像を見て住民側への哀れみを感じる人がいれば、それはメディアという技術者による洗脳の被害者である。こういう情報媒体が盛んである以上、我々の日常には既にこうした不自然な「非難」が溢れているに違いない。