「ある晴れた悲しい朝」の巻
午前9時、相棒と共にあるところへ行った。
いつもの方向音痴が災いしてとんでもない方向へ進んだので、
近くの駐在を訪ねたらいくらインターホンを押しても出てこない。
仕方なく引き返し、より前にあった駐在へ道を問うた。
案の定、わたしは正反対の方向へ進んでおり、
しばらく見慣れたばかりの景色を観る羽目となった。
しかし、燃料は昨日補充したばかりなので大丈夫だろう。
駅前広場を横目にそのまま走り、高架下から山道を登った。
平坦な道では、いつもは使用しない4速へギアを入れた。
随分と見なかった信号機の下を右に折れると
樹木の茂る曲がりくねった道をひたすらに下った。
その「らしさ」にわたしは少なからず安堵した。
しばらく下ると突然目の前が開けて、
高い柵に囲まれた野原が容赦なく広がっていた。
都内とは思えないほど莫迦みたいに広かった。
さらに道を進むと目的地へ着いた。
午前11時。
空はひたすらに澄んでいた。
烏龍茶を取り出してひとくちだけ飲んだ。
ここはかつて多くの人々を巻き込んだところだ。
その喧騒もすでに風化し、いまはただ空と草がたゆとうている。
あたりには何もない。
いろいろと目に入るけれど、何もないかのような感じがする。
静かだ。「静寂」ではない。ただ静かだった。
奇妙な言い方だが、とてもいいところだ。
ぼんやりとそんなふうにおもった。
手の痺れも治まったところで、わたしは再び相棒に身をあずけた。
そして、木の覆い被さった道をゆっくり上っていった。