コント「恋人紹介センター」
2006年、政府当局は年々記録が更新される出生率の低下を深刻な事態であると鑑み、「公共の医療機関における恋人あっせんに関する法律」を制定した。これは男女の出会いの円滑化および促進によって出生率を上げることを目的としており、その場として様々な検査を行える医療機関が最適であるという考えから立てられた法律である。
男性>
というわけでやってきたんだけど大丈夫かなあ。さっき受けた知能テストみたいなのも難しかったし……あ、先生。
医者>
お疲れ様でした。まだまだ検査は続きますので楽になさってください。紅茶でもいかがですか。
男性>
はあ、いただきます……(一口すすって)でもやっぱり気がかりなんですよ。何だか物々しい機械とかあるし。
医者>
開発途上のシステムですからね。これから普及していけば効率も上がると思うんですが。しかし当センターではIQ診断の他に収入や学歴、嗜好など多角的なアプローチを行っていますので数字としてはそれなりの自信があります。さすがに人の心情面までは検査できませんが……。それでもご心配でしたら中断されても結構ですよ。
男性>
……いえ、中断はしません。僕は何としても来年までには結婚したいんです。
医者>
わかりました。では次の検査に移りましょうか……まずはこの機械を頭に装着してください。
男性>
これさっきから気になってたんですよ。んと、こう被ればいいんですよね?
医者>
はい。今からアンケートを行うのですが、より正確なデータを採るためにウソ発見器を用いています。少しでもウソが混じっているとデータになりませんからね(ピロリン)
男性>
今の音は?
医者>
かぶった姿がなかなか滑稽だったのでケータイで一枚。
男性>
何してるんですか!
医者>
いや失敬プス、別に興味本位というわけじゃなくてですねプスス
男性>
笑いが漏れてますよ!
医者>
まあまあ落ち着いてください。情動的な状態での答えもデータにはなりませんので。
男性>
一気に不安になってきたな……。
医者>
ではこれからわたしがする質問に「はい」か「いいえ」で答えて頂きます。
男性>
二択だったらウソ発見器の意味がないでしょう!
医者>
74択にしますか?
男性>
どんだけ増やしてるんですか!普通のアンケートにしたって多すぎますって!
医者>
では「はい」「いいえ」「モルジブ」の三択にしましょう。
男性>
何ですか「モルジブ」って!だいたい選択肢がひとつじゃなきゃウソ発見器を使う理由がないですよ!
医者>
ちょっと待ってください……あ、ホントだ。
男性>
マニュアル見なきゃ操作できないものを平気で他人に施さないでください!
医者>
ではこれからわたしがする質問にすべて「モルジブ」で答えてください。
男性>
それ残しちゃうんですか!?……お願いですから真面目にやってくださいよ先生。
医者>
じゃ「いいえ」でいきましょうか。「あなたは男性ですか?」
男性>
……いいえ。
医者>
ウソ、と。
男性>
見りゃわかるでしょそんなの!敢えて訊く必要がありませんから!
医者>
こういうのは被験者の緊張をほぐすために最初に当然とも思える質問をするのセオリーなんです。
男性>
……先生、もうウソ発見器はいいですから普通に「はい」「いいえ」でアンケートしてください。だいたいウソなんかついても仕方ないですし。
医者>
そうですか。では続いてまいりましょう。「年収は1000万円未満ですか?」
男性>
はい。
医者>
「持ち家ですか?」
男性>
いいえ。
医者>
「最終学歴は大学院ですか?」
男性>
いいえ。
医者>
「最近どうですか?」
男性>
?……いいえ。
医者>
「ご趣味は?」
男性>
……いいえ。
医者>
「何レンジャーが一番お好きですか?」
男性>
……いいえ。
医者>
あの、まじめにやってもらえますか。
男性>
真面目にやってますよ!だいたい質問の仕方がおかしいじゃないですか!ラストの「何レンジャー」とか質問そのものが意味不明ですし!
医者>
いけませんねえ、そんなに熱くなっては。
男性>
熱くもなりますよ!僕は真剣に結婚をしたいと思ってるんですから!
医者>
ふむ、願望だけはしっかりとお持ちになってるようですね。
男性>
当然ですよ!
医者>
やはり危険だ。
男性>
えっ?
医者>
いいですか、今のは言わばあなたの忍耐力を測るテストだったんですよ。結婚というのは式は一時ですが生活は永続でなければなりません。つまり「忍耐」が何よりのマテリアルであると言えるのです。
男性>
……。
医者>
このまま結婚されるのは実に危険なのですよ。あなたには愛と恋との判別が出来ていない。瞬間の幸福のみを求めていらっしゃる。これでは順調な結婚生活は望めません。
男性>
……そうだったんですか。
医者>
でもまあ安心してください。「危険」というのは別にあなたを対象にして申し上げたわけではありませんので。
男性>
?……どういうことでしょうか。
医者>
そろそろすべてをご説明いたしましょうか。国家の繁栄は国民全体の知能の高さに比例します。レヴェルの高い人間がレヴェルの高い職に就く……これではいけないのです。あらゆるものにおいて高水準でなくては。
男性>
いったい何の話を……。
医者>
そこで当局は考えました。つまり間引きをすればいいのだと。
劣等種は刈り取ってしまわないと高レヴェルな存在の成長、ひいては国の発展をも妨げます。
地道な作業ではありますが所謂「出会い系」の手段が最も効率がいいという結論を出したのです。
レヴェルの低い連中であればあるほどこういうものに引っかかりますからね。
「国家公認」という何の価値もない看板でさえここでは効果を発揮するのです。
男性>
……。
医者>
あなたの場合がその典型と言えましょうか。
願望だけは持っているくせに肝心の中身がついていっていない。
年収も低いし、知能テストの結果も決して芳しいとは判断できない。
このような人間が生きていては困るんですよ。
……そろそろ身体の自由も利かなくなってくる頃でしょう。
男性>
あれっ!?
医者>
しかし医者の出す紅茶を簡単に口にするとは考えられませんな……では話を続けますよ。
稀に真にエリートたる人間も寄って来るでしょうが、その際には全力を挙げて相応な相手を見つけます。言うなればサラブレッドの掛け合わせを国が自ら行うといったところでしょうか。
さらに国家の反映の邪魔になるバカの遺伝子を廃棄できて一石二鳥、という塩梅です。
男性>
……ううっ。
医者>
ああ、安心してください。あなたが死んだところでバカの遺伝子が一掃できるとは思っていません。あなたの戸籍からご実家の位置は割れていますのでご家族の皆様にも亡くなっていただきました。ひとりで死ぬのは寂しいですからね……あ、これは「あなた自身が」ですよ。別にバカとその家族が死のうがどうしようが当局は寂しくも何ともないですから。ただ邪魔になる存在を排除しているだけです。自然淘汰ですよ。
……おや、声も上げられなくなってきましたか、結構結構。あなたの遺体は適当に海でも捨てておきます。バカでも魚の餌程度にはなりましょう。瞼も閉じてきましたね。どうぞ、そのままおやすみになってください。
(完)