「Bassic of Music」の巻

 Squarepusherの最新作「Hello Everything」を購入。何よりも驚いたのはそのタイトルである。わたしの彼の音楽との出会いは「Come on my selector」であり、所謂「鬼気迫る(というか半狂乱の)ドリルンベース」という印象だから、というのが第一の理由で、第二の理由が21世紀最初に彼が放った「Go Plastic」に再び衝撃を受けて、あと10年くらいは彼に追いつけないだろうというわたしにしては珍しい「謙虚なきもち」が浮かんだからである。彼は時折Aphex Twinと比べられるが、リチャード(・D・ジェイムス。Aphex Twinの本名にして別名義)は狂気を無邪気に作品へ反映させる気概を持っているけれども、トム(・ジェンキンソン。Squarepusherの本名)は「作品であること」、つまり誰かに理解されるだろう対象であることを意識しているように感じる。要するにポップなのだ。そのポップさと狂気とのバランスにわたしは惹かれた。
 さて、件の「Hello Everything」であるがジャケットから今までの陰鬱さが宿る感じとは一線を画している。昼白色に照らされた機材とパンキッシュなピンクのトム(らしき人物)が9カット。明るいが、しかし、病的ではなく衒いなく明るい。内容もアコギを使ったダンサンブルな曲もあるのでますます怪しい(お得意の高速ドリルンベースももちろん入っている。7曲目『Cronecker King』は音のぶった切れ具合が素晴らしい)。隣にあったUNDERWORLDを買わなくて正解といったところか。でもトム、「Vacuum Garden」はないだろ。あれじゃYMOっていうか松武秀樹だよ。
 しかし、トム・ジェンキンソンを初めとして、わたしの好む音楽には優れたベーシストの存在がある。例えばYMO細野晴臣氏のベースは聴くだけで何か呟いてしまいそうな魅力がある、わからない人はYMOの「東風」や「灰色の段階」を聞けばいいだろう。例えばASIAN DUB FOUNDATION。バンマスでもあるDr.DASの激しく主張しないが、しかし、根幹を支える低音は人種差別と闘うという彼のもうひとつの側面を象徴しているかのようである。トムも同様で、カスタムメイドの6弦ベースやアナログシンセベースの使い方に聴覚が陶酔させられる。11曲目「The Modern Bass Guitar」の曲がり具合(シンセベースを聴きなれた人ならわかるはず)は、さすがアナログシンセ、さすがベース奏者、といわざるを得ない。
 考えてみれば、ベースというのはなかなかに不思議な楽器である。音楽のリズムコントロールを担い、同時にメロディラインも奏でるし、また、低音を加えることで音全体に存在感を与えてくれる。以前に作った曲で「なんかもの足りないなあ」と思って何が足りないのかわからずに唸っていて、適当に選んだエレキベースのループを組み込んだところ、それだけで解決してしまったことがある。もしバンドを組むなら、わたしは真っ先にドラムとベースを決めるだろう。それ以外は、さして興味がないというわけではないが、しかし、上の二つが最優先であることは確かだ。