要素 〜M-1グランプリ2007雑感

 M-1グランプリについて。まずは敗者復活から王者へ、という前人未到の偉業を成し遂げたサンドウィッチマンのお二人に祝福を。最終決戦のネタ披露が終わった時点で「もしかしたら」という気がしたのだが(ここにでも書いておけばよかった)まさか成し遂げるとは思わなかった。さて、以前にも書いたが、予想通り出順が明暗を分けた大会だった。勝利には才能、技術に次いで、もしくは同等かそれ以上……とにかく勝利という状態において運は不可欠な要素であることがよくわかった。「一組目の評価が以降の基準になる」というセリフがあるが、笑い飯は決してスタンダードに属さない、言い換えれば異端であって初めて輝くスタイルなので(それはPOISON GIRL BANDにも言及できる事実である)まったくもって運が無かったがゆえの敗退としか言えない。
 また、今回はメタゲームというポイントもある。今回の決勝に残ったコンビはほとんど、そして最終決戦に至ってはすべての漫才師が「途中でコントに入る」という形式をとっていた。このメリットは、ネタが破綻するリスクを防ぐことにある。コントという「外枠」によってネタが軌道を外れたり、逆に一本調子になったとしても「本線であるコントに戻る」といった流れで強引だが容易に修正できるからだ。ここにおいてメタゲーム、つまり出場者の傾向が重要になる。上に挙げた形式は非常に有効で、殊に「安定」という漫才の絶対条件のひとつを強力にバックアップする。だが、この「最強の手段」を用いずに、かつ、目を向けさせれば一気にライバルが減り若干の余裕が生まれる――けれども、それも冒頭に挙げた才能・技術・運の三要素には若かない。別の言い方をすれば、この三要素を身につけ、なおかつ「最強の手段」を使いこなしたのがあの三組であり、また、優勝者なのだろう。そういった意味では、前大会におけるチュートリアルの優勝がどんな意味を持つのか、再考する価値は充分にある。
 続いて、トータルテンボスについて書いておきたい。最初にM-1の決勝に来たときは非常に衝撃的だった。そしてその衝撃のあまり大きな誤解をしていたことに今回の視聴で気がついたので。まず初めて彼らのネタを観たとき、東京の若者言葉を織り交ぜた漫才である点に惹かれた。わたしはこれを関西弁の蔓延る東京のテレビメディアにおけるお笑いへのアンチだと考えた。誠にシニカルで、かつ斬新である。また、その「シニカルかつ斬新」というのは関東のお笑いにおいては王道的なスタンスであったため好感を持ったわけである。続いても同じくM-1グランプリ。ここではネタにおいて「若者言葉」が浮いていた、もしくは彼らが「若者言葉」の持つ特殊性を武器として認知していて、それを使い、しかし使いこなせていなかったことに失望を覚えた。武器が武器だとわかっていながら使いこなせない姿が滑稽ですらないことは言うまでもない。ここをもって一気に評価を下げたものである。
 しかし彼らはまたも勝ち上がってきた。当然わたしは期待していなかった。以前2007年度のファイナリストについて書いたときも眼中にはなかった。だが。決勝でのネタで脱帽せざるを得なかった。同時に自らの誤解にも気付いたのである。その誤解とは「彼らの『若者言葉』が関西弁へのアンチ」という認識をしていたことだ。ましてやオリジナリティを醸すための手段ですらないらしい。実に彼らは、関西圏の漫才師が関西弁を用いるがごとく、つまり、彼らにとって自然な喋り口で漫才をしていたにすぎない。もしくは、そういった計算を覆い隠すだけの――あたかも「若者言葉」を武器だと認識していないかのように見せるだけの技術を身につけたわけである。これまで彼らがM-1グランプリで決勝に残った際、そのすべてのネタにおいて「しのびねえな」「構わんよ」というやりとりをしているのだが、それらを比較すると劇的に変化しているのがわかるはずだ。無論だが今回のそれが最高の出来である。また、ありきたりな評価ではあるがツッコミのレヴェルが格段に上がっている。「若者」特有の「無駄な語彙力」を背景とするセリフ回しはそのままにソフィスティケイトされているといったところか。大竹まことが言及した「施工主のバカ!」という台詞はその粋である。
 あとは細かい点をいくつか。ハリセンボンが予想以上に(というか過小評価していたので)面白かった。理由はいかにも「女の漫才師」によるネタだったためだが、同時にその点で面白みが削られるのは逆説的。POISON GIRL BAND笑い飯は先の通り。ザブングルは加藤を使うべき場面があまりにも少なすぎた。ただあれ以上暴れても面白くなるわけではなさそうだが。キングコングは最終決戦において、一瞬だけ「漫才」ではない空気になったのが残念だった(投票が少なかったのはそれを感づいたからか)。ダイアンは、昨年のライセンス的な立ち位置だった。これも予想通りといえば予想通り。今回はドラマティックな部分と読めた部分とがきれいに割れた、という感じである。だが、そもそもわたしは今大会は全体的に面白みが少なそうと踏んでいたので、この結果には満足している次第である。

 今回は以上です。