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 RADWIMPS「オーダーメイド」を聴く。A、Bとサビは四拍子だが二回目のサビの後、Aが終わると三拍子のCパートが入る。RADWIMPSには過去にも「蛍」「遠恋」のように複数の拍子を用いる曲があるが、おそらくこうした構成を持つ昨今のJ-POPは珍しいのではないかと寡聞ながらに考える。野田洋二郎にアカデミックな音楽理論があるか否かは計り知れぬところだが、もしくは器用であることの証左だろう(ちなみにいずれの場合も拍子が変わる際にブレイクを用いているところを鑑みるとロジカルな思惑ではなさそうではある)。
 四拍子は地に足がつき三拍子は飛ぶ、という話を聞いたことがある。おそらく二足歩行であるがゆえに偶数では両方の足が揃うが奇数ではいずれかが宙に浮いてしまうから「浮揚感」とでも言うべきイメージを与えるのだろう。陸上競技三段跳び」のリズムもここに由来するのかもしれない。これらを上手に組み合わせることが出来れば、楽曲そのものにストーリーを与えることが可能である。無論それは構成にかぎらず、ポリリズムのような手法にも言及できることだ。
 再び「オーダーメイド」に話を戻すが、ここでオケの構成と歌詞とを並べて考えてみたい。この物語は冒頭で「きっと僕は訊ねられたんだろう」とあるようにある男性の想像を枠組みとしている。なぜ人は未来を知ることが出来ないのか、なぜ口や心臓はひとつなのかといった問いを、それは「誰か」との対話と自身の選択に拠るという空想でもって補完する、というのが全体的な内容だ。けれども、その「対話」にはどうも当てはまりそうにない歌詞がある。以下に引く。


> 望みどおりすべてが叶えられているでしょ
> だから涙にくれるその顔をちゃんと見せてよ
> さあ 誇らしげに見せてよ


さて、「誰か」が提示したさまざまの条件からの選択によって主人公は感覚や身体を『オーダーメイド』したわけだが「顔をちゃんと見せてよ」というのは誰の台詞なのだろうか。「誰か」は条件を提示し、主人公のオーダーに答える存在だ。したがってその「結果」を知りたがる理由も、またその必要もない。となるとこの台詞は主人公のものでしかないわけだ。では、この言葉を受けるのは誰なのか。一行目からこれもやはり主人公が受け手であることが導かれる。なぜなら彼は『オーダーメイド』によって自身を作ったからだ。ここにおいて、結局これは自己との対話であったことが明かされる。言い換えれば空想上の「誰か」は消え去り、現実的な自問自答の構図が浮上するのである。
 本題はここからである。この冒頭で記したCパート=三拍子の部分には、実は引用した歌詞が当てられているのだ。わたしは先に三拍子が持つ浮揚と四拍子の与える着地とを述べた。ここまで書けば自明と思われるが、「オーダーメイド」という曲は拍子のイメージと歌詞の内容とが逆転しているのである。簡単に言えば、空想の部分はすべて四拍子で構成され、明確な自己との対話という現実性を持つパートに三拍子を当てているわけだ。この奇妙さを解くにはより巨視的な思考が必要とされる。
 先から「浮揚」「着地」という語を繰り返しているが、これはあくまでアクションそのものを指しているにすぎない。換言すれば、その行動が起こる「場」の設定を行なっていないのだ。ということは、この曲の「浮揚」はどこからどこへの「浮揚」で、「着地」とはどこへ足を付けているのかを明らかにせねばなるまい。これは結構簡単な話で、つまり「失意」という「地」から「現実」へ浮揚しているのだ。失意というアクションは専ら単独で行われる(というか複数での共同的失意なるものは聞いたことがないしまずありえない)。ここでの基本的で重要な作業は「失」くした「意」の再構成である。この曲においては、空想上の「誰か」との対話による『オーダーメイド』によってさまざまの理由づけが行われ、文字どおりの再構成が進んでいる。そのオーダーが「涙」に及んだ際に主人公は「失意」から「現実」へ浮揚する。三拍子のパートが終わると楽曲は再び四拍子へ戻るが、主人公は「誰か」に問う。


> 最後にひとつだけいいですか
> どこかでお会いしたことありますか?


早い話がここで空想は終わり、再構成の完了が告げられている(=主人公が『誰か』を自分自身だと把握しかけている)わけだ。ちなみに楽曲の最後の最後で少しだけオケが消えて野田のヴォーカルだけが浮き彫りになるのだが、ここでも「失意」の終わりと立ち直りとをイメージしているのだろう。
 最後に現在フルヴァージョンが視聴可能なヴィデオクリップについて触れておきたい。曲と映像とがほとんど関係ないように見えるが、ところどころで映像が歌詞の内容に、しかも直接性を避けて象徴的にリンクする。これはアニメ『俗・さよなら絶望先生』第3話の前半パートと同じシステムである。昨今の音響と映像との組み合わせはこういうのが流行ってるんだろうか。詳しい方、ご一報を。

 今回は以上です。