早朝酔いどれ雑記

 宝酒造の「焼酎ハイボール」はちゃんと「焼酎」を炭酸で割っている。世間でいう缶チューハイはだいたいウオツカなのだが、さすが宝焼酎といったところか。目下、ドライ、レモン、シークァーサーの三種を飲んだが、どれも焼酎得特有の匂いと後味の薄さ(いい意味での)を醸していて好感がもてた。何より素晴らしいと考えたのは、炭酸の生み出す泡の粗雑さである。言い方に不備があるかもしれないが「泡が粗い」のだ。気泡が大きく感じられる。ギネスやキルケニーのようなマイルドな泡、もしくはモエ・エ・シャンドンのような肌理の細かい泡とちょうど対極にあるような炭酸である。まさに「荒々しい」といえよう。それはおそらくビールの持つバタ臭さというか「酒と泡が混然と一体となって」のようなプラスイメージのものではなく、場末の大衆酒場でグラスに氷を詰めて適当に焼酎を注いで炭酸水で割って果実を搾って、一杯三十秒で作れそうな雑然と気の置けなさを想起させる。難しい顔をして一口含んでみたり、ソーセージをつつきながら陽気に乾杯したり、あるいは前菜の前にのどを潤したり、飲む前にグラスに立ち上る泡を眺めたり……そういった印象とはまったくかけ離れた、汗を滲ませて雑踏をすり抜けるカッフェの給仕から「はいよ!」と渡されて一人でちびちび飲むような印象とでも言おうか。飲み干してしまった現段階になって氷を入れたグラスに注いで呑むべきだったと後悔している。この泡を生み出せるのもやはり「焼酎」だからだろう。ウオツカのようなハードリカーはそのアルコールの強さゆえに炭酸が抜けやすく、この本来「酎ハイ」が持っていただろう大胆な気泡を演出するのは難しい。また、この製品の缶は魚の鱗のような凹凸がある。これが「荒々しい泡」の演出に一役買っていることは言うまでもないだろう。戦後の、決して快いとは言い難い風潮を一瞬だけ消し飛ばしてしまっていた(つまり数秒後に否が応にもその不快を味わってしまう)のかもしれない、この粗雑な泡を楽しませてくれる宝酒造の「焼酎ハイボール」。しばらく飲み続けることになると思う。