「大学を志す皆様へ」の巻

 高校三年生ともなると今時分は大学受験に東奔西走していることと思われる。が、留意していただきたいことがひとつある。

「裕福でないなら大学には行かないほうがいい」

 ということだ。大学は低所得者の行くところではない。明確な理由をここで述べよう。
 まず、大学というのはおそろしく金がかかるところである。入学金、授業料はもちろん教科書代もバカにならない。加えてゼミ合宿など開催されようものなら四年間で何百万かかることか。下宿や交通費という大学以外の出費もある。これだけの負担をすべて親に背負わせようと考えるほど神経の図太い人ならいざ知らず、一般的な精神の持ち主であるならせめて授業料くらいはと考えるであろう。つまりはアルバイトである。とはいえ学業を疎かにしては元も子もない。夜勤が必然だ。世間一般の時給というのは大学に通うには非常に乏しく、相当な時間をバイトに費やさなければならない。従って、生活は大学・自宅・バイト先の往復ですべて消費される。サークルなんぞでキャンパスライフを謳歌している暇などあるはずがない。サークルや部活動は須らく学生の時間を束縛し、かつ、余計な出費を発生させるからである。
 続いて、学業面から鑑みるにただ講義を受けていればよいというものでもない。つまりレポートや研究発表のレジュメ、試験などがある。そのために時間を作らなければならないが、かといってバイトの時間を減らせば大学にも行けなくなる。幸い、大学は1時間や2時間暇になってしまうということがあるので、ここで充てるのだ。しかしそれでも足りない場合は睡眠時間を削るほかない。バイトから帰って時間が多少あっても布団に入らず、提出物を書き上げ、ノートを復習する。当然短時間では仕上がらない。気がつけば家を出る時刻、というケースもあるだろう。
かくして疲労が堆積するわけだが、ここでお薦めするのは栄養剤である。多少の出費はあろうが、学力には代えられまい。バイトの時間を二時間増やすかもしれないが、これで疲労を一瞬忘れて学業に専念できるとすれば甲斐もあるというものだ。が、それでも人間は疲労と精神性ストレスを浴びてしまうので、結果、あらゆる面で失敗する。講師の質問に答えられなかったり、試験の結果が散々だったり、バイト先で取り返しのつかないへまをして大いに叱責される。相談できる友人などいるわけがない。なぜならサークルにも所属せず、放課後にはバイトに走っているためである。人間関係など築く余裕はない。恋愛も当然諦めなければならない。そのせいでさらにストレスは溜まり、医療機関のお世話になる。投薬治療の場合は薬品でさらに出費がかさんでいく。普通免許など取りに行く時間もお金もない。夏季休業や冬季休業の際にはバイトに勤しみ、多少の蓄えを作る必要があるからだ。試験期間中に休みをもらうためである。それでも大学に通い続け、単位取得のために睡眠時間を削り、訪れた週末は睡眠と提出物の作成で潰れる(この場合、一切の趣味を失えるのでその分の出費が学費に充てられるのが効用)。あっという間に月曜日が来て、未だ疲労が残っている体で、再び大学とバイト先との往復が始まるのだ。

 以上のような生活を送りたくなければ、家庭が裕福でない人は大学への進学を棄てるのが宜しかろう。別に大学だけが人生ではないし、一回きりの人生なのだから無理に苦しい道を選ぶこともあるまい。就職すれば社会への適応能力は格段に上達する。ろくに挨拶も出来ない大学生に比べれば、人間としての価値はぐっと高いことだろう。
 
 今一度告ぐ。裕福でない家庭の人間は大学へ行くべきではない。

 今回は以上です。