「水面下」の巻

 松尾スズキクワイエットルームにようこそ』読了。中編小説なので30分くらいか。やっぱり小説でも音楽でも映画でも、Entertainmentは須らく「設定」が肝要であることを再確認した。「目が覚めたら精神病院」とは、なかなか思いつく構図ではない。無機質な感触を有機的な観点で描いている点が実に面白かった。オチもしっかりしている。今や押しも押されもせぬ彼だが、その底力を見たような気がした。夏季休業中の集中講義において「文芸創作」なるものを今年受講するのだが、いい刺激になったと思う。目下、大体の筋は描けている。夕暮れ時の路線バスの話だ。
 幼少期よりカウンターカルチャー(『サブカルチャー』とは敢えて言うまい。Non-Standardな現状において主副の区別なんて不可能だからである)に首まで浸かっていた私にとって、劇団「大人計画」を知るのは時間の問題だった。最初に広く知られたのは温水洋一氏だと思う。妹は三軒茶屋で氏を見かけたらしい。何せあの風貌だ、遠目でも充分判別できよう。彼の主演ドラマ「死体生活」をご存知だろうか。深夜枠だったので今ひとつ認知度が低いが、実に面白かった。こんなストーリーだ。
 温水氏演じるヴィジュアルどおりの気弱な亭主が、ある日奥さんを殺害してしまう。が、団地住まいということもあってか、死体をどう処理すればいいかわからない。彼は何を思ったか、既に自立した娘が置いていった大きなテディベアの中に死体を押し込んでしまう。とりあえず隠したものの、やはり良い方法が思いつかない。そこへ様々な「招かれざる客」がやってくる。
 セットは6畳の台所兼食卓と同じくらいの広さの寝室(死体が置いてある)のみ。深夜枠の低予算を見事にクリアした設定と言えよう。舞台自体が狭いので、来客に簡単にテディベアが見つかってしまうことによる緊迫感をも手に入れている。また、時折挿入されるLed ZeppelynnやDeep Purpleなどのオールドスクール・ロックも私の琴線に触れた。毎回「天国への階段」で幕を開けるのだが、実に気の利いた演出である(他にもうひとつ面白い深夜ドラマがあったのだが、それはまた別の機会に)。
 とにかく『クワイエットルームにようこそ』は最近の中でもかなり面白い小説だった。才能のある人間はこうでなければならない。ちなみに、グループ魂などのいわゆるお笑いではない、かなりシリアス(かつ笑える)作品であることを付記しておく。