「我が名は pt.2」の巻

 「新井銘菓」という名はわたし自身と無関係というわけではなく、本名のアナグラムである。以前に下の名前のことを書いたが、それは実に一般的でどこにでも転がっているような類のものなのだ。翻って苗字だが、これは非常に珍しい種類で、法事くらいでしか、つまり親戚と顔をあわせるときくらいにしかお目にかからない。また、珍しいので教員に覚えられやすいという不便な点もある。茨城に本家があるらしく、成人してから挨拶に行ってないのでいずれ伺わねばなるまい。
 そのせいもあってか、相手はわたしのことを覚えているのに一方のわたしはほとんど記憶にないということがしばしばだ。成人式のときも後ろから声をかけられたので振り向いたが(こういうときに迷わないので便利な苗字ではある)、果たしてわたしはその声の主を思い出すことはなかった。単にわたしの海馬の機能が低いだけかもしれないが、やはりこの「珍名」が原因である可能性は無きにしも非ずだろう。
 ところが、現在所属している山梨県の某公立大学は北は北海道、南は沖縄から学生がより集まっているので珍しい苗字の人々もそれなりに集まる。中でも当国文学科はその宝庫であった。紹介することは出来ないが、聞いたことすらない姓のかたがたが多かった。彼らがわたしと同じ悩みを持っていたかもしれないと思うと何となく嬉しかったのを覚えている。
 ちなみにある講義で知り合った先輩とたまたま別の同じ講義に出席した際に、やはりあちらから話しかけてくれた(というより、わたしは進んで話しかけるような人種ではない)ので、なぜわたしのことを覚えていたのか、と訊いたことがある。彼女は「これ」と言って自身の頭を指差した。
 なるほど。頭にタオルを巻いている人間には、わたし自身も構内で会ったことがない。