「芝浜」の巻

 タイムリーな話題を。立川談志による「芝浜」を見る。ドラマ「タイガー&ドラゴン」で取り上げられたのでご存知の方も多いと思うが、この談志ヴァージョンは名演なので是非ご覧頂きたい。落語は大きく二つの方向に噺が分けられる。笑い話と人情話だ。前者は桂文珍がやはり圧倒的に素晴らしい。特に前口上でのくすぐりや現代風のエッセンスの交え方と、ショウマンシップに則った盛り上げ。それでいて古典の世界を壊さない。敢えて挙げるならば「蔵丁稚」あたりがお勧めである。翻って談志は後者である。「芝浜」の泣かせる部分を引き出し、しかし時折くすぐることも疎かにしない。ひとつひとつの台詞回しや一挙手一投足が落語を「噺」だけに落ち着かせない(先に『ご覧頂きたい』と書いたのはそのためである)力量はやはり師匠が天才である所以を物語っている。
 立川談志が他の噺家と一線を画している点は実はここにあるのではないか。80年代以降、それよりもっと前からか、落語は確かに「誇り高き伝統」として持ち上げられていたものの実態は「年寄りしか見ない」手狭な芸能であった。世の人の興味は音楽や映画といった他のエンターテイメントに動いていったからである。談志がなぜ本来は笑いの要素の豊富な「芝浜」をあのようにリミックスしたかというと、落語を真に「誇り高き伝統」に押し上げるためではなかっただろうか。本来のあるべき姿、つまり庶民の芸能という立場に再び戻すこと。そのうえで他の芸能に追随を許さない存在であること。この二つを目指したわけである。座布団の上に正座して話すだけが落語ではない。手ぬぐいや扇子といった小道具を使いまわしつつ、時には大仰に振舞う究極の一人芸であることを彼は訴えようとしたのだとわたしは考える。
 とりあえず、「芝浜」は是非。