「高橋幸宏細見」の巻

 Human Audio Spongeとかサディスティック・ミカ・バンド再々結成とかで何かと高橋幸宏氏をブラウン管越しに拝見することが多い。というか、今までに比べて多くなった。いつもながら服飾のセンスには惚れ惚れする。デザイナーなのだから当然といえば当然なのだけれど、そして着たいとも着られるとも思わないけれど「いいなあ」と思ってしまう。音楽ももちろん最高だ。SKETCH SHOWが発する電子雑音の中に垣間見られるポップさはやはり高橋氏に拠るところが大きいのではないかと思う。デビューアルバム「Audio Sponge」収録の「Do you want to marry me」のカヴァーも氏のアイディアらしい。あのもの悲しい、苦笑いしているような繊細な詩が氏の琴線に触れるのも頷けるというものだ。また、笑いに関してもわたしの心をくすぐる。氏がいなければきっと劇団Super Eccentric Theaterは世に出ていなかったかもしれないのだ。再び「Audio Sponge」に話を戻すが、同アルバムにはあの「ごきげんいかが1、2、3」がやはりカヴァーされている。歌詞もSKETCH SHOWヴァージョンに書き直されているところも面白い。
 つまり、高橋幸宏という人は完璧なのである。一部の隙もないほど完璧なのだ。派手さはないけれど、ほころびがどこにも見当たらない。例えどこかに見えても、それさえ演出のように感じる。「ライディーン」も冒頭のロールから緊張感を保ったまま最後まで駆け抜けるというイメージがある。「東風」や「シムーン」などは途中で息抜きがあるけれども、「ライディーン」はちょっと気を抜くと別の展開へ流れ込んでいる。しかし、それは決して意外性や前衛性を持っておらず(あるいは持っているのかもしれないが)、すんなりと耳に入ってくる。そしていつの間にか終わっている。残されるのは電子音の残響と「楽しかった」という印象だけだ。
 氏は学生時代にパンツの折り目が決まっていなかっただけで一日憂鬱だったというほど神経質だったらしい。この神経質はつまり繊細と完璧主義の同居であるとわたしは考える。この神経質さは音楽や服飾をやる上ではある意味必須ではないだろうか。自信のイメージを可能な限り現在させることを追い求め、それには一切の妥協をしない。鬼気迫る執念とさえ表現できそうな、一言で表せば「恐ろしい」までの気質を高橋氏は持っているのだ。そして自身の思考と合わないものはすっぱりと切り捨てる残酷さをも氏は見せる。Human Audio Spongeのインタヴュー映像で「教授と細野さんが一緒に何かやったら面白そうだとは思うけど、あまり想像がつかない」と語っていたが、この発言もきっと「残酷さ」がゆえなのだろう。想像がつかないというのは興味が湧かないのとほぼ同義だ。長年親交のある細野氏と教授を相手にしてさえ、上のように言ってしまえるだけの芸術家気質が氏には宿っている。その姿勢にわたしは敬意と憧憬を覚えてやまない。