「(Sittin' on)The Dock of The Bay」の巻

 興奮が収まってきたので書くことにする。先週の金曜に放映されたNHK総合プレミアム10」の感想。Human Audio Sponge(以下HAS)が横浜・国立大ホールで行なったライヴを中心に構成された一時間番組である。まさか高田漣がいるとは思わなかったが、やはりこの三人には圧倒される。以前はHAS(=Sketch Show+Ryuichi Sakamoto)と表記していたが今回は括弧が取れていた。別に永続的にこのバンドを続けるつもりではなさそうだから細野晴臣がインタヴューのたびに口にしていた「どうでもよくなってきた」というのが一番あてはまるだろう。このゼロ地点でさえない思考(というかスタンスというか茫洋さというか)ゆえに彼らはYMOという看板を背負い、楽曲を発表できたのだ。1993年の「再生」をあれほど嫌がっていた彼らが。
 ライヴは、30年間から変わらない配置に三人がいた。披露された楽曲について。オープニング「以心電信」はヴォーカルの割合がぐっと減り、発せられるメッセージが明確になっていた。ハイライトの一つ目は「Riot in Lagos」だろう。sonarではメインのリフを教授がKaoss Padで加工していたが今回は前面に、しかもはっきりと響かせていて、HASもYMOと同じくロックバンドであるらしいことを認識させた。新曲「Rescue」は以前にも少し聴いたのだがこれでフルに近い状態で聴くこととなる。なんとなく「灰色の段階(Gradueted Grey)」を彷彿とさせる曲だ、というかヴォーカルスタイルはほぼ同じかもしれない。「RYDEEN 79/07」は教授がトイピアノを弾いたのは最初だけ、というのがやや残念だったものの古いレコードを遠くから聴いているような感じを覚え、妙な味わいがあった。「音楽」は裏ハイライトか。おそらくオーディエンスの誰も予想できなかっただろうこの選曲。いまだに意図がつかめないが「以心電信」を含め、「サーヴィス」ということだろうか。最後は「CUE」。教授がドラムを操っている(ということで二つ目のハイライト)。アレンジはライヴ「Wild Sketch Show」と同じか。原曲のように2・4のスネアが神経質に鳴るという構成ではないので、教授の鬼気迫る表情がとにかく怖かった。まさかあんな顔で叩いていたとは実際にライヴへ赴いた人も気付かなかっただろう。
 考えるに、変わらない何かとともに変わり続けていくさまが、この三人にはある。その「変わらない何か」が着実に熟成され濃縮されているがゆえに、それ以外の一切を浮遊させておけるのだろう。たったひとつの核を持ち、ふらふらと漂うさまは穏やかに見えるが、その真実は何でも取り込めるという点において非常に貪欲かもしれない。あまりに動きが受動的な(ように見える)ので気付かないだけなのだ。しかもその貪欲さは漂う本人にさえ察知されない。そして、この「無為」は言うまでもなく天賦の才である。なぜなら動きが受動という体裁として成り立っているからだ。