「季節柄」の巻

 WHAM!Last Christmas」といえば日本においては12月になったが早いかテレビや街頭などで耳にする(実に鬱陶しい風物詩である)クリスマスソングの名曲である。ゆえにさまざまなミュージシャンがカヴァーしているが言わずもがな本家には敵うはずもなく現在でも聴かれ続けており、洋楽をかじった程度の人でも知らないことはまずないだろう。この曲にかぎらず、クリスマスソングといえば多少の派手さはあっても基本的な色は落ち着きであり、それはきっと雪の吸音的性質に理由を求めることができるだろう。当然キリスト教に基づく宗教行事であるからして、荘厳さをポップな中にも兼ね備えていなければなるまい。
 さて、ここにSavage Gardenによる同曲のカヴァーがあるが、どうもこれは先述の条件を満たしているようには考えられない。エレクトロニックダンスポップを軸に据えた彼らがカヴァーするのだから当然といえば当然だが四つ打ちである。正確にバスドラムで刻まれる四拍子のもたらすものは畢竟高揚であり、荘厳さは表現不可能ではないが、静けさとは程遠い。彼らがカヴァーするにあたりWHAM!に敬意を払っているのは疑いようがない。では、この高揚を湛えたクリスマスソングの核は何か。
 Savage Gardenというバンドをご存知の方なら既にわたしの示すべき解答は見えているだろう。彼らはオーストラリア出身なのだ。南半球においてクリスマスが祝われるのは夏である。もちろんホワイトクリスマスなどというものも存在しないし、したがってクリスマスは静謐とは無関係、むしろ熱を帯びた祭典となるはずなのだ(はず、というのはわたしが南半球でクリスマスを過ごしたことがないため、推測でしか言及できないがゆえである。悪しからず)。Savage Gardenにとって四つ打ちでのカヴァーは屋外、青空の下で祝うクリスマスが根付いているだろう彼らにとってはむしろ必然だったと言える。逆を言えば、日本において「クリスマスソング」の視座がいかに偏狭であるかを逆説的に示してもいるのだ。ところでこの曲、調べたところ正式にリリースはされていなさそうである。機会があればぜひ。