小論

 「表現とは何の謂ぞ」の巻

「この映画が好き」ということはあるけれども「この人の関わっている映画が好き」ということはほとんどない。それは主演であれ、監督であれ。わたしは栗山千明さんが好きなのであって「Kill Bill vol.1」のDVDを観るのであり、監督がロバート・ゼメキスだか…

 「ism」の巻

田山花袋「露骨なる描写」を読む。硯友社の総帥、紅葉没後に発表されたこの論は紅葉、露伴、逍遥、鴎外全盛の時代にあった「文体主義」とも言うべきムーヴメントを「白粉沢山」、つまり粉飾に感けて中身を失う虞があると真っ向から否定し、内容の直接的描写…

 「省察」の巻

2005年最後は黒人音楽について書いておこうと思う。といってもわたしは20世紀以降の音楽の切れ端しか見えていないのだが、とりあえず書くことにする。 わたしにとって音楽はそれが自然であればあるほど心地よい。エリック・サティが提示した「家具のとしての…

 「2005年を省みて」の巻

50年代に登場したテレヴィジョン、及びそれを利用するメディアの最大の特徴はその情報量にあった。昨今は「インターネットは情報の山」と叫ばれて久しいがわたしは今でもテレビは情報媒体として最も大きな力を持っていると考える。所以の一つはその強制性で…

 「あなたのための全体主義」の巻

結婚記念日のケーキを前金で支払ったばかりだというのに、本屋で「国民クイズ」を見つけたので衝動買いした。復刊していたのか、と思って版元を見たら太田出版だった。予想は何となくしていたけど、相変わらずいい仕事をしてくれる。思い返せば「ゴールデン…

 「ことばについて」の巻

昨今のテレビ番組ではとかくに「正しい日本語」を取り扱うタイプを目にする。バイトの休憩時間に「タモリのジャポニカロゴス」を観ていて、「申し訳ありません」が誤用であるとされていた。これは「申し訳ない」が分割不能な一単語であるがゆえであり、正し…

 「ザッツ・エンタテイメント」の巻

時折夜6時のニュースを見る機会があるのだが、どこの局もやっている企画でごく内輪なネタを扱うというものがある。で、今回は土地開発に向けての桜の木の撤去を巡って近隣住民と業者との言い争いが取り上げられていたのだが、どうも腑に落ちない。というのも…

 「さよなら」の巻

ミヤコワスレという花がある。別名、「東菊」。かの順徳院が佐渡にて、都への想いを少なからず癒すことが出来たことから名づけられた。花言葉はここより転じて、「別れ」「短い恋」「しばしの憩い」。見沢知廉の遺作「愛情省」を読んだ。 愛情省とは、国家に…

 「交歓」の巻

本日は18歳以上推奨。おこさまはぺーじをとじてください。 第39回新潮新人賞受賞作「冷たい水の羊」を読む。何だか「殺し屋1」を思い出した。つまり、SMというのは行為そのものではなく責めと受けとの精神的相互理解があって成り立つもので、しかもそれが無…

 「その裏に」の巻

映画「レーシング・ストライプス」を観た。シマウマが競走馬になるという物語で、それまでの紆余曲折があっていわゆる感動モノのラストが待ち受けているというありがちな作品だった。ここでひとつの疑問が浮かんだ。これは動物を扱う映画に得てして現れる現…

 「波長と符合」の巻

今回のテーマはイシバシハザマである。トータルテンボスはその語彙、語法という点においてシニカルな側面を持っていたが、イシバシハザマの持ち芸のひとつ「おかしな話」は構造として日本語の特徴を捉えた感触をしているのだ。 ショートコントという演芸の形…

 「追究」の巻

伊藤氏貴「阿部和重論」を読む。要するに阿部の作品には軸とか中心といったものがないということだろう。それはわたし自身もかつて「グレイ・ゾーン」という単語を用いて把握していたので別段面白い内容ではなかった。ここで伊藤氏は阿部の作品を「闘う人々…

 「カーテン・コール」の巻

阿部和重「ニッポニア・ニッポン」を読む。これで彼の代表作はあらかた読んでしまったことになるのだが、総括するとやはり「グランド・フィナーレ」は異色作であったことを確認できた。デビュー作「アメリカの夜」からあった「肉体改造」というベースライン…

 「壁に耳あり」の巻

阿部和重「トライアングルズ」を読む。ストーカーの深謀遠慮における一切の告白を、それを聞いた子供の視点から展開していくという話である。序盤でいろいろと謎を提示しておいて少しずつひもといていき、大事件へ近づいていくというスタイル。つまり、すべ…

 「形無き舶来品」の巻

漱石が「I love you.」という一文の和訳を学生に問われて「日本語にそんな言葉はない。『月が綺麗ですね』とでも訳しておけ」と返したという逸話があるが、確かに日本人にとって愛とは存在し得ない感情のひとつである。そもそも感情かどうかすら定かではない…

 「追憶、穏やかに」の巻

村上龍「ラブ&ポップ」読了。書かれてから10年が経つわけだが、意外とこの時代における記憶が鮮明であることにまず驚いた。当時のわたしは小学生であり、東京とはいえ郊外に住んでいたので渋谷は勿論のこと援助交際とも縁遠い日々にあった(幸か不幸か、渋…

 「YOU LOVE HIPHOP?」の巻

現在のところ、日本においてhiphopという文化は根付いていないと思われる。Rapという点においては多少手に入れた感じはあるものの、hiphopとして観るとやはり首を傾げざるを得ない。 まず、聴けばわかることだが日本の「hiphop」と銘打たれたものは音が多す…

 「科学的映画論」の巻

昨日はバイトが早く終わったので「Kill Bill vol.1」を鑑賞した。もう何回目になるかわからないが、面白い。ご存知の通り人間がばっさばっさ斬られていくのだが、ここでふとわたしは別の映画を思い出した。ジャンルは違えど流血の量では劣らない『エルム街の…

 「読書のススメ」の巻

価値ある本とは何か。これは結局すべての本がかつては「現代文」であったことを想起すれば簡単に定義できる。すなわち当時の世相を反映した本である。漱石の『こゝろ』に何故価値があるのか。それは「愛」という概念の日本における在り方を描いているからだ…

 「いと」の巻

夢野久作「ドグラ・マグラ」読了。足掛け二日。「シンセミア」と重ねて、長編ならこの程度で読めるらしいことを認識した。で、物語のほうだが実に面白かった、と書けばそれで終わってしまうので野暮な所業と重々承知の上で書き連ねてみることにする。 「DEAT…

 「レビュー」の巻

阿部和重『インディヴィジュアル・プロジェクション』読了。二時間くらいか。とりあえず東京という都市空間が文学に与えた影響を探るつもりで読んだが、あまり資料としてはよろしくなかった。面白いからだ。 全体としては「随分と親切なつくりだなあ」という…

 「芥川の無念 敗北」の巻

http://d.hatena.ne.jp/araimeika0910/20050605#1193764530 ↑まずはこちらを読んでから。 芥川も結局「身体性」を確保出来なかった。遺稿のひとつである「或阿呆の一生」においても度々身体は明示されたものの終盤にはPlatonic Suicideという概念を抽き出し…

 「親殺し雑感」の巻

親を殺害したとして、15歳の少年が現在留置されている。現在の刑法に依れば第39条に抵触しない限り、彼は死刑、或いは懲役に処せられる。渡辺浩弐氏はかつて「親殺しの罪は問われるべきではない。なぜなら再犯の可能性が無いからだ」というコメントを、自身…

 「芥川の無念 暗闇」の巻

これは「芥川の無念 序章」の続きである。よって、まずはそちらをご参照されたい。 http://d.hatena.ne.jp/araimeika0910/20050525#1193764139 さて芥川といえば時代物である。が、それは普遍性を時代に仮託して描かれたものであり、例えば「地獄変」などは…

 「芥川の無念 序章」の巻

初めて芥川に触れてから10年になるが、最近彼を「闘士」であり「敗者」として観るという視座を手に入れた。それまで、彼は私の英雄であり敬愛すべき人物だったのだが、ここへきて「彼も人なり」というか、戦って負けた男の哀しさという雰囲気を彼から感じる…

 「one step closer to the edge」の巻

「マザー2」を本日クリア。もう何回目になるか忘れてしまったが、いつもその芸の細かさに唸ったり台詞の一言一言が身にしみたりする。言い換えれば、喜びや悲しみが的確にこちらへやってくるのだ。それは恐怖も然りである。その最たるはラスボス、ギーグの台…